樹の階段を恐るおそる登ってみると、可愛い子猫が3匹。
屋外の囲炉裏を囲んで子猫達は気持ち良さそうに背中を丸めている。
その横でコーヒーを飲みながら何やら話しをしている女性が1人。
そして炭で餅を焼きながらコチラを見ている男性が1人。
1匹の子猫と毛糸で戯れ、無邪気に笑う男性が1人。
どの人の顔も柔らかく、ふんわりと垣根がない。
何だかとても不思議だ。こんなに違和感のない人達がいるなんて・・。
一瞬の間が空いた後「お餅食べる?」と、男性が私に語りかけた。
面喰ってしまった私は、あわてながら「えっ。食べていいんですか?」
と答えた。すると男性はお餅に醤油をまぶし、海苔で巻いてくれた。
ヤッパリ不思議だ。何をしに来た女性なのかも聞かないうちから、お餅
を食べさせてくれるとは・・。
いいのかなぁ?と思いながら食べたお餅は炭火焼の香ばしい味がして、
とても美味しかった。
目の前にガラス張りの木でできたドアがあるのに気が付きいた。喫茶店の入り口だった。
窓越しに中を見ると満員のように見えた。
ふ〜む。30代の若い男性マスターと、その親族かな?
カウンター席が5席しか無く、とても狭い。暫く外で待つ事にした。
その間、外ではゆったりとした世間話をして楽しんだ。
暫くしても喫茶店の中からは誰も出て来そうもなく、中に入る事にした。
ガラガラガラーッ。マスターは何も言わずコーヒーを入れながら私を見た。マスターの
親戚だと思えた人達は、初めて来たというお客さん達だった。
マスターは無口で、ひたすら飲み物を丁寧に作っては出していて時間が
やたら、かかり過ぎる。そして、お客さんとの雑談が始まった。
何故か不思議に違和感が無い。みんな垣根が無い。不思議な幸わせ感。
丁寧な上に山の天然水で作られたアイスコーヒーは非常に美味だった。
私がこの喫茶店に寄った理由は仏果山に登るルートをマスターに聴く為だった。
本厚木からバスで1時間、歩いて1時間が経過していて茶店に着いたのが12時
過ぎ。このお店に来る人達は大抵が山登りの経験豊富な人達だという事が話して
いるうちに分かってきた。だからか?垣根がないのは・・。
次から次と話題が絶えない。もっと話していたいけど陽が沈むとまづい。
マスターにルートを書いて貰った。帰りのバスの時刻と山蛭避けの塩と傷テープ
も親切に付けてくれた。そして「気を付けて行ってらっしゃいませ!」と一言添
えて送り出してくれた。うわ〜ッ。優しすぎるだろ〜ッ。
「行って来ます!」と外に出ると「ジャガイモ食べない?」と、さっきのお餅の
男性がバター片手にホイルに包んだジャガイモを指しだしてくれた。
「アチチ、アツイ、アツイ」と私が言うと「どれ、半分にするとホラ、熱くない
よ、食べられるよ」・・もう優しさの大安売り。
ヤバいよ。ヤバい。ジャガイモが甘くてメッチャ美味い。そこにメガネかけの20代
男性がバイクに乗って登場。どうも常連さんの様子。又話が弾み、すでに時刻が14
時半。うわ〜ッ。本当にヤバい。
すると20代男性曰く「えっ!今から登るんですか?ここには登ってから帰りに来な
いとヤバイっすよ。」・・そんな事、今さら言われても〜。
「とにかく行って来ます。」と茶店を後にした。
仏果山は800M満たない山で比較的低い。頂上からは宮ヶ瀬湖、厚木の町並みや相模
湾などが一望できる。
風が強く展望台では体ごと吹き飛ばされそうな程強かった。落ち葉が風で空を舞う
様がとても素敵だった。大山の時と同じく下山時には真っ暗だったが、茶店の人達
が麓で待っていてくれると思うと安心して降りれた。
ガラガラガラ〜ッ。「や〜。お帰り〜。随分早かったね。頂上まで行けた?展望台
見えた?」と・・質問攻め。暗くなりギリギリセーフで帰って来た私を新たに増え
たお客さん達とマスターが迎えてくれた。
バイクで全国縦断の話や、座間から喫茶店まで8時間歩いて来たとか皆、楽しそう
に話す。それをカウンターの中で仕事をしながらマスターが時々喋る。
マスターの第一印象は無口で空気の様な存在感だった。若いながらも穏やかで質素
な感じだ。しかし、そこに流れるふわ〜ッとした柔らかい時間の流れはマスターに
より、かもし出されて居るものかもしれない。
「傾聴」・・まさしく、この言葉がピッタリだ。
微妙な間の取り方と語らい。このコミュニケーション能力がマスターを中心にお客
さんを取り込みつつ、上手く絶妙に絡み合う。いつまでも浸っていたい時間の流れ。
一歩外に出ると、いつでも人との出会いが待っている。
その一瞬の出会いが、もう二度と逢えないかもしれない出会いが・・心にふわ〜ッと
残像となり浸みこむような、そんな人に出会いたい。そんな人になりたい。
↑ブログを読んだらクリックしてね!