現在一人で営んでいる小料理店の接客中に、熱湯を被る事故がありました。
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たまたま、母が奥さんへ最近の様子伺いの電話をしてわかり、
この時点で事故を起こしてからすでに一か月が過ぎており、
入院には至らずとも下半身に大やけどを負ってしまったのです。
日中の動きがかなり制限されている状態だったというのだが、
それでも店を開けて営業しているとのことなので、
見舞いがてら奥さんの店へ家族三人で出向きました。
店の開店時間を見計って行くと、奥さんは片足を引きずってはいたが、
いつものように「あらぁ」と出迎えてくれた。
挨拶をそこそこに症状を聞き、包帯巻きしてある患部を見ると、
素人目にも肌表面はかなり改善されてきたようであったが、
それがかえってやけどのひどさをうかがえるようでした。
しかも、包帯で固定巻きにしていたときはお湯でカラダを拭いたらしく、
これが風邪のもととなりぜんそくを引き起こしてしまったり、
やけどをした足が利き足のため、それをかばうように歩いたら
横転してしまったこともあったとかで、
事故以降の一か月は踏んだり蹴ったりな目に遭ったみたいだ。
それにも増して私が驚いたのは、
やけどをした次の日には店を開けていたというのです。
それだけではない。
店の食材を買うためにいつも自転車で行く商店街まで歩いていき、
それを届けてもらうようにしてきたり、
休みの日は、奥さんのお兄さんにあたる方を見舞うために出かけたり、
常連客が東京マラソンに参加するというので応援へ行ったりと、
まるでいつもの出来事のように淡々と語った。
どうやら制限というのは私のイメージと異なり、
奥さんの中では風呂と自転車での買い出しくらいみたいだ。
この奥さんには、並々ならないパワーがある。
プライベートで様々な困難に遭った末に、一人で店を開いて切り盛りをし、
数十年の間はほとんど休むことなく、店を開けてお客さんをもてなし続けた。
その地道な運営と人柄で常連客がついてきて、
私も名前は知らないが顔は知ってるという人が数人いる。
やけどをしたときも常連客の協力があって初期治療が功を奏したというし、
通院の際も営業途中で寄ったお客が車で病院まで連れて行ってくれたりと、
ひとえに奥さんの人柄あってのエピソードだろう。
そして私より年上の三人姉弟がいる母でもあり、
うち二人の子ども(奥さんの孫)がやれ入学だ、やれ留学だと面倒を見、
下の息子とは近隣で暮らしているがその世話もし、
とにかく奥さん自身がやけどやぜんそくでありながらも、
店の営業のため、ひいきにしてくれる常連客のため、身内のためと、
それを当たり前のようにこなすところに、奥さんのパワーを感じるところだ。
やけどの症状回復のために静養を勧められたそうだが、
「家でじっとしていると気が滅入りそう」とポツリ言った。
これまでの背景を少なからず知っている私には、非常に重みがあった。
たぶん、そうなんだと思う。
そして私は、こう思った。
たとえどんなに痛くて不自由でもどうにか動けるのなら、
自身の店を開いていこうという信念。
それは治療という理由で立ち止まってしまうと、
かえって自身の精神が損なわれると知っているから、
ケガをおしてでも店を営業したい気持ちの現れなのだろう。
きっと奥さんだけでなく一人で看板を背負う仕事の人には、
似たような精神をもっているのではないだろうかと。
以前、「交流分析のドライバーも使い方次第」と話したことがあったが、
私は奥さんの姿を見てそんな気がした。
場合にもよるが、自分で引き受けられる心構えと判断があるのなら、
仮にドライバーによって動いたとしてもそれはそれでいいように思う。
肉親であるかどうかの違いはあるものの、
片足を引きずりながらもカウンター内を動くさまは、とてもかっこよかった。
しばらくして、私たちのあとに常連客がゾロゾロやってきて、カウンターは満席になった。
幸いにも、奥さんのやけどの後遺症は少なく済みそうです。