2008年05月26日


かなりん <カウンセラーかなりんの遊々随想>

モデル喪失の時代

 やっと総会が終わり、一息ついているかなりんですが、
一息が二息三息にならぬよう気をつけないと、あっという間に
日が過ぎていって、気がついたらもう今年も幾月か、なんてことに
なりかねません。引き締めていきましょう! 

 と、いざブログにとりかからんとしたところに電話がかかって
来ました。年配の女性の方からです。聞けば娘さんが会社を
辞めて以来、部屋に閉じこもったきりで、食事のときなどに
話しかけようものなら物凄い剣幕で暴言を吐く。ここ数日は
食事にも降りてこなくなって、どう接していいか分からない、と
いうことでした。

 当方では今のところ電話でのご相談は受けていないのですが、
こうした電話にはつい身が入ってしまいます。余り聞きすぎても
いけないので、面談に来てくださるようお勧めして電話を切りましたが、
きっとその娘さんも、昨日のA子さんのブログにある「壁」にぶち当たって
苦しんでいるのだろうなあ、と思い胸が痛みました。

 その娘さんは30代ということですが、このところNPOだけでなく、
他の行政の相談でも、30代の女性に纏わるケースは増えています。
「女性も働いて自立して生きていかねばならない」という呪縛を背負い、
懸命に働いてきてたものの、その大変さに疲れ果て、将来の道筋も
定まらず、いわば人生半分も行かぬうちに「迷子」になってしまった
というようなケースです。

 こういう女性の母親たちは大半が専業主婦で、働いていたとしても
パートが多く、彼女たちの生き方のモデルにはなりません。マスコミ
には、苦難を乗り越えて働き続け、企業の役員になったり、自ら会社を
興して成功したりしている50〜60代の女性たちがよく取り上げられて
いますが、あれは本当に稀有な例といっても差し支えないと思います。

 そういえば5月22日付けの日経夕刊に「要職の母 目指す娘」という
記事が掲載されていましたっけ。ここに取り上げられているのは、何れも
「大手デパート執行役員の母、一流企業システムエンジニアの娘」とか、
「大手出版社社長の母、都内アパレル企業社員の娘」とか、そんな事例
ばかりで、「男社会をくぐり抜けてきた母の助言は、励ましより厳しさが
あるからこそ説得力を持つ」と言い、仕事で行き詰まった娘に「休日出勤
しても責任を果たせ」と助言する母の話、或いは会社の執行役員就任
を迷っていたとき、娘から「私だけでなく多くの女性の目標になる」と
背中を押されたという話など、まことに羨ましい限りのエピソードが列挙
されています。

 記事は、「最近はキャリアを築いた母親を娘が目標にするケースも
目立ち始めた」とぶち上げていますが、まあ、確かに今まで余り
見られなかったことではあろうし、「目立ち始めた」というのも嘘では
ないにしろ、ごく少数のエリート家庭の話を、こうして普遍化するのは、
いかにも日経らしい書き方だなあと思いながら読みました。

 ともあれ、この記事にあるような「キャリアを築いた」母親の数など、
全体から見ればほんの一握りに過ぎないのですから、結局世の殆どの
働く娘たちは、こんな母親を持ってはいないのです。大半が働きたくても
働けず、当然のように結婚して、家族の世話と日々の家事に明け暮れ、
漠然とした不全感を抑圧しながら生きている世代です。自らの果たせな
かった夢を、知らず知らずに娘に投影しているようなケースもあります。

 上述した電話のケースでも、娘さんは大学を卒業後、某大手の
金融関係の会社に就職し、頑張っていたようです。しかし、30歳を
過ぎた頃から体調不良を訴え、段々会社を休みがちになり、「抑うつ
状態」との診断で休職、結局は辞職せざるを得なかったと言います。
お母さんは「何年も頑張ってきたのに本当にもったいない・・・」と
言ってらっしゃいましたが、娘さんの苦悩は想像するに余りあります。

 母親をモデルにできるごく少数の恵まれた娘たちの陰に、モデルに
なるべき生き方を見出せず、将来の不安を抱えて「壁」の前に立ちすくむ
多くの娘たちがいることを実感します。そしてモデルに恵まれた娘たちの
なかにさえ、件の日経の記事中、信田さよ子氏がコメントしているように、
「仕事も育児もやり遂げてきた母の業績を重く感じる」娘もいるかも
しれません。「モデルがいる」ということも、良いことだけではなく、
苦しいこともあるのです。

 今日の電話のお母さんは多分私と同世代だと思われますが、私たちは
否応なく母親の歩んだ道をモデルとして押し付けられた世代です。それは
それで決して楽な道ではありません。モデルがいることもいないことも、
究極は同じように苦しいことなのかもしれません。

blogranking.gif

ブロ

グランキング・にほんブログ村へ

↑ブログを読んだらクリックしてね!




 
posted by CSNメンバー at 20:37 | Comment(3) | TrackBack(0)
この記事へのコメント
こんにちは お久しぶりです お忙しそうですね
女性の生き方も難しいですねぇ 家庭においては母 職場においては同僚や先輩 メディアからは何だか極端な例・・・
実は色んな生き方をしている人がいるのでしょうけどね

ずっと主婦だけの人 ずっとキャリアウーマンの人 キャリアウーマンやめた人 主婦からキャリアウーマンになった人等々 それぞれ特徴があるなぁと感じます 幸い色んなパターンの人と友達なので私としてはなんかバランス取れて助かってますが、キャリアだけ 主婦だけ というだけだけ仲間だと辛いなぁと感じそうだなと思います
結局どっちでもいいんじゃないかしら?と思いつつ 働いてないとだめよ! とか 家庭をおろそかにしちゃだめよ!とか やっぱり働きたいわ!だとか やっぱり仕事やめたいわ!だとか・・・色々なご意見(^O^) ふりまわされるだけばからしい 観察して ホォ とジャッジもせず感情も特にいれず ホォそうかいな と聞いてます。

ザ これが正しい なんてものがないから難しいですね人の意見は様々ですし 勝手なものでもありますし
ふりまわされたら辛いですね
その娘さん 楽になれたらいいですね〜

Posted by MA at 2008年06月10日 14:25

MAさん、
久しぶりにコメントを頂いて嬉しいです!

女性の生き方の選択肢が殆どなかった昔は、
自由があれほどまぶしく見えたのに、今は
それが女性たちを苦しめる。
まことに皮肉なものだと思います。
Posted by かなりん at 2008年06月10日 23:58
過去の女性解放をやってきた方々はどう感じているのでしょうね あれま・・・でしょかね
自由に活躍したりは素敵なことでしょうがその活躍をアピールされると私等はちょっと食傷ぎみになってしまいます うちのお隣の退職した女性は在職中はニューヨークとかにもよくいくキャリア 今も服は銀座等 へぇ・・・とべつに嫌でもなんでもなく感心して聞きますが、聞かないのに話されるのは不思議(T_T)
自分がいかにお金もちのお嬢様だったかとか 家庭がどうとか 生まれは自由が丘だとか・・・そういうこと等を聞かないのに「こんにちは」の後に話始める方が女性に結構いるなぁってちまたに生きながら感じます 幼稚園ママの間では旦那さんの仕事 大学とかを自己紹介でする人が結構いるみたい・・・オヨヨ

何かを支えに人はたっていたりはするんでしょうが 仕事にしろ家庭環境にしろ別に殊更自主的にアピールしなくていいような・・・
幸いカウンセラーなんてしていたからか「わぁすごいですねぇ」とかと誉め称えはせず「そうなんですかぁ」程度にコミュニケーションしますが、私すごいでしょ すてきよね よね!的な状態は自由とは見えないなぁと サラッとしたいものだな 案外難しいけど



Posted by MA at 2008年06月13日 08:21
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック