東京に来て4年半近く、ずっと同じ部署で仕事をしてきた。
私は彼のことが大嫌いだった。
彼のあまりにも自己中心的なところや、上ばかりを見て仕事をして
いるところや、いつも不機嫌で、すれ違ってもあいさつもしない
ところなど。
それが部下を持つ者としての態度なのかと憤りを感じ、反発ばかり
してきた。
だけれど、この4年半、彼の部下であり続けることを選んだのも
私だった。
仕事を変わろうと思えば変われるのに、私は同じ部署にいつづけた。
勿論、会社を変わるということは、すごく覚悟のいることだし、
それが出来ないからといって自分を責めることはないかもしれない。
だけれど私は、そこにいることを選び続けながらも、彼と向かい合う
こともしなかった。
私は自分の置かれた状況に対し、何の行動もしなかった。
送別会の日、彼は私に言った。
「僕は部下に対して、どう接して良いのかわからなかった。
深く関わりたいと思いながらも、その方法がわからなかった。」
それは彼の本心だろうと思う。
私が彼と向かい合うことから逃げていたように、彼も私と向かいあう
ことから逃げていた。
そして私は心の奥では、彼の行動が、その不器用さから来るもので
あることを分かっていたと思う。
だけれども、その不完全さを認めず、理想の上司像をぶつけてばかり
いた。
ようやく最近になって、人は皆どこかで苦しみを抱えているのだと
思えるようになった。
その苦しみから自分を守る為に、いろいろな行動に出るのだと。
それまでは自分ばかりが辛くて周りの人は恵まれた環境で育ったの
だと被害妄想的に思っていた。
今は周りの人の苦しみを認め、きちんと向かい合っていきたいと
思う。
逃げないでいようと思う。
その上司は、こうも言った。
「あなたは、よく考えるけれど、考えすぎて行動に移せずにいる。
時には考える前に行動することがあっても良いと思う。
まだ若いのだから」
彼もまた、私の弱点をよく分かっていた。