2015年01月20日


かなりん <カウンセラーかなりんの遊々随想>

自己中に乾杯!

 今日は仕事で一日中外出していた。
移動はJRと東京メトロ、そして途中短い区間
だったがバスにも乗った。
「事件」は、そのバスの中で起きた。

 そのバスは、夕方だったせいか結構混んでいた。
通路に立っている人も多く、私もちょうど真ん中の
柱のあたりに窮屈に位置取りをした。
それ程窮屈になるのには原因があって、優先席の
前に何とドデンと大きなバギーが置かれていた
のである。中は空っぽで、ママは赤ちゃんを
抱いて優先席に座り、その隣には母親と思しき
中年の女性が付き添って座っている。

 そこに乗り込んできて、バギーの横に身体を
逸らせるようにして立った初老の女性が「これ、
折りたためないんですか?」と、咎めるような
口調で尋ねた。「折りたためないんですう」と
甘えた調子で答える若いママ。「え〜っ」と
不満気な声を上げる初老女性。

 隣の中年女性が「あそこがベビーカーの入る
座席なんですよ」と、向かい側の席を恨めし気に
じっと見つめやる。確かに車いすやベビーカーの
対応シートと表示されているその席には、女子高生
らしき若者が「我関せず」の風情でスマホに夢中。
そのすぐ横に立つサラリーマン風の男性や、周りに
いる中年男性諸氏も全員が「我関せず」。

 そんな光景をぼんやりと眺めていた私の前に、
一人のやせた老女が、入口の方から押し込まれる
ようにしてやって来た。顔は私の方を向いているが、
身体はシートに押し付けられるように横向きに
なっていて、何とも不自然な態勢だ。その老女が
キッと私を睨みつけるや、びっくりするような
大声で怒鳴り始めた。

 「全く迷惑ったらありゃしないよ、こんな混んだ
バスにたためないウバグルマなんぞ持ち込んで一体
何だと思ってるんだ!!あたしゃあ腰が悪いんだよ!
それなのにこんな格好させやがって、全く非常識
にもほどがあるよ、こんな混んだバスにアカンボ
なんか連れて乗るなってんだよ、バカヤロウ!!!」

 ここで終わりではなく、2停留所先で私が降りる迄
これがずうーっと続いたのである。やせ細った身体の
どこから出てくるのかと思うくらいの車中に響き渡る
でっかい声で。それも私の顔を真っ向から睨みつけ
ながら。本当は優先席に向けたかったのだろうが、
何せ身体が反対側に捩れているので、これが精一杯
だったのだろう。もうまるで私が怒鳴られているかの
ようだった。

 件のママやその母親がどんな顔をしているのかは
人が壁になっててんで見ることができなかったが、
降りた気配がないところを見ると、まあ、知らん顔
してやり過ごしてるんだろう。老女の渾身のパンチ
もそれほど効いてないのかも。
何せ「たためないんですう…」だからね。

 私が降りた後も飽くなく浴びせられるであろう
罵倒の嵐。その嵐を吹き荒れさせるままにして、
バスは走り去った。嵐を逃れてほっとして見送る
私の胸に妙な感慨を残して。

 帰宅して今日の「事件」を思い起こすと、その
登場人物たちが胸中を去来する。そういえば
赤ちゃんを除いて全て女。彼女たちの見事な
自己中ぶりと、嵐を恐れぬエネルギーの強さに
飲めぬ酒で「乾杯」でもしたい気分になっている。


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