彼といえば、金の長髪で霊だとかオーラだとかをとくとくと話し、
歌手というよりスピリチュアルコメンテーターといったイメージで、
これといって興味がなかった。
本業の歌もそれほど惹かれず、
代表作の「メケメケ」「ヨイトマケの唄」は聞いたことがあっても、
好んで聴くようなものではなかった。
「愛の讃歌」もカバーしていたが、やはり越路吹雪がいい。
昨年末の紅白歌合戦では初めて出演をし、その絶唱姿は高い評価を得ていた。
周りが「すごい、すごい」というほど、私にはピンとこなかった。
だが先週、寝る前にテレビを消そうとチャンネルを変えたときに、
偶然にも彼が映った。
ステージ衣装は紅白に出演したときと似たようなもので、
たぶん「ヨイトマケの唄」や「愛の讃歌」あたりを歌うのかと思い、
30分程度だし観ることにしたのだ。
しかし驚いたことに、選曲はこれまで封印していた曲ばかりだった。
戦争により失われた命とその悲惨さを歌った「亡霊達の行進」。
原曲のシャンソンをもとに、彼が自らが訳詩、歌った「人生の大根役者」。
そして、ヨイトマケの唄が出るまでの辛い時期を歌った「金色の星」。
感想はそれぞれあるだろうが、
私は美輪明宏に「この人はやはり男だ」と感じるものがあった。
それは格好だけの話しではなく、やはり経験が培ってきたものだろう。
戦争、シスターボーイ、反戦歌の発禁。
これら一連の経験はどんなに自らの思いを声にし、表現をし、訴えても、
世相や社会の不条理とぶつかり、打ちのめされることがある。
それでも諦めることなく戦い続けてきたからこそ、
養われてきたもののように思う。
戦争はしてはならないという先で人的差別があるのは、
どうしても矛盾でしかない。
消されてしまうのか、消される前に何かするのか。
美輪明宏という人は、歌とシスターボーイの格好を武器に、
その社会の矛盾の中を生きた人なのだろう。